コミュ障僕。英会話サークルに参加する。(前編)

人間は互いにコミュニケーションをする生き物だ。人と人との間で生きることで、人間と成るのではないか。

最近ではイルカやコウモリなど、様々な動物もまたコミュニケーションをしていると判っている。

 

しかし、ここにいる、今この文字を必死に指を動かして、フリック入力しているこの生命体は、凡そ人間でも動物でもないのかもしれない。なんたって僕は人とコミュニケーションがとることが大の苦手であるのだ。

人はソレをコミュ障と言う。コミュ障という一種、別次元の生命体として人はソレを扱う。

辞書を開く。

[Communicate ]

コミュニケイトと言う。

さらに言えば、コミュゥ↑ニケェィトと言う。分かる。理解はしている。だが、単語の理解と実践は違うのだ。

 

しかし、今なぜか僕は新入生として英会話サークルに来ている。

なぜ、どうして。不思議に思うかもしれない。はっきり言わせてもらおう。これは、これだけは、本当に自分でも分からない。

「意味がわからん。」という人があるかもしれない。そういう人に、僕は大学生の常套句を用いて言い返す「それな。」と。

 

しかしながら世の中、不思議なことは往々にして存在するのだ。旧校舎の3階女子トイレには花子さんがいるし、マリーアントワネットは楽器の名前みたいだし、脳内会議で超合理的決断をしてしまうこともあるのだ。

 

今日はサークルオリエンテーションである。その日、僕の脳内サミットでは熾烈な議論が行われていた。議題は「僕を人と話せる真っ当な人間にする化計画」

 

聴覚機能を司る側頭葉国の長は言う。「コヤツは人と話すには教養が足りない。もう少し音楽的素養を磨くべきじゃ。じゃから吹奏楽部に入るべきじゃ。」

 

運動機能を司る前頭葉国の長は言う。「あんだって?教養だって?クソ食らえ!コイツに足んねえのは!気合いだ!男なら口はいらねえ!拳で語れ!ボクシング部に入部しろ!!」

言語機能を司る大脳国の長は言う。「ふむ。なるほど。確かにこの男は口では人と上手く話せないですね。しかし、拳で語り合うのはいけないでしょう。ただでさえ不具合が多い頭です。殴られて更に頭が悪くなってしまっては困ります。あ、そうだ。どうでしょう。いっそのこと英会話サークルに入部するというのは。英会話サークルならば、教養も身に付けつつコミュ障を脱却できるのではないでしょうか。」

 

 

といったような悪魔の弁証法が僕の脳でなされたのではなかろうか。

まあ、ともかくとして、今、「コミュ障」という学名の生命体である僕は、円卓が5つほど並べられた、英会話サークルの狭い活動教室にいる。

ここで言っておくが、当然僕は英語も出来ない。日本語でコミュニケイトさえできないのだ。況んや英語をや。である。

 

不安だ。どうしよう。帰りたい。そんな考えが頭をずうんと支配する。

教室内にはチラホラ新入生がいるが、少し早く着いてしまったため、上級生は未だいない。

僕は「インキャの英会話サークルであれ。コミュ障しかいない英会話サークルであれ。みんなコミュ障であれ。」と半ば狂乱的にコミュ障系英会話サークルであることを祈っていた。

 

しかし、そんな矢先。ガラッと扉があいた。その瞬間、僕の鼓膜はブルブル震えた。

「ウェェールカーム!ニューカマァーズ!」

大きな声を出して入ってきたのは、コミュ障とは天地の差がある、スポークスマンな上級生達であった。